スピースのスイングコーチの物語 中編(全3回)

スピースは勝つために存在している

2016.7.10 6:34
ジョーダン・スピースとキャメロン・マコーミックは2006年7月に出会い、今も一緒にいる。 Photo by Matt King/Getty Images

 これは10代半ばにやっと真剣にゴルフに取り組んだ豪州人が、いかにしてフェデックスカップ覇者から信頼されるインストラクターになったかの物語だ。

 キャメロン・マコーミックの妻・ソマーは、クローゼットの扉の内側に貼られたメモを見て驚いた。よく読むと、それは彼女の夫がインストラクターとして成し遂げたいことのリストだった。

 それはまるで、南カリフォルニアで若きタイガー・ウッズが寝室に掲げていたもののインストラクター版だった。

「そのメモは、2年後には剥がされました。彼が思い描いていたより、ずっと早くに目標を達成したのです」ソマーは言う。

「より多くを学びたいという熱意と、明確な目標設定。まさに彼の人となりを表しています」(ソマー)

 今ではマコーミックは、自宅の机にポストイットを貼りつけている。小さなメモに記されているのは、やることリストではなく、自分が設定した目標に向かって成長し続けるためのひらめきだ。

 トルコ共和国の初代大統領、ムスタファ・ケマル・アタテュルクの名言は、夫を言い表すのにピッタリな表現だとソマーは思っている。

「よい教師とは、ロウソクのようなものだ。他者の進む道に光を照らすため、自身をすり減らす」

 マコーミックはどうしてもゴルフインストラクターになりたかったわけではないが、友人たちはみな、彼のことを常に上を目指す求道者と評する。

 プロとしての短いキャリアを終え、ティーチングを仕事にしたとき、ゴルフスイングについてだけでなく、選手のパフォーマンスを最大限に引き出す方法について膨大な時間を費やして学んだ。

「特にバイオメカニクス(生体力学)となると、彼の知らないことはありません。ボール軌道からスイングプレーン、心理学、モチベーション、訓練方法まで、何もかもを熟知しています」と、テキサス州ダラス郊外にある南メソジスト大学(SMU)ゴルフ部ヘッドコーチ、ジェイソン・エンローは言う。

 彼はマコーミックの導きで、米国下部ツアーであるウェブドットコムツアーで2勝した経験を持つ。

「彼の最大の強みは、本当に必要なときに選手が持つ最大限の力を引き出すための練習法を教えているということです」(エンロー)

 それは、スピースが2015年のマスターズと全米オープンを含めた5つのメジャーで優勝争いに絡んだ理由の一つでもある。

 マコーミックはツアーで戦っていたときとティーチング初期に、技術面にこだわりすぎたことを認めている。ニック・ファルドがデビッド・レッドベターのもとでスイング改造に成功したため、完璧な技術というものに取り憑かれた時代だったのだ。結果的にファルドのメジャー6勝には結びついたが、万人向けの方法ではなかった。

 マコーミックは技術面以外で教えることのほうが多いと気づいた。

「彼はしっかりした基礎と、美しいスイング、適切な技法を身につけさせようとしましたが、それよりも結果を重視していました」エンローは言う。

「彼が内心、『なあ、待てよ、完璧じゃなくても最高の出来じゃないか。このことから何が導かれるかだけを考えよう』と思っているのが分かりました」(エンロー)

 初めてマコーミックのレッスンを受ける1カ月前、スピースは63のスコアを叩き出した。今も昔も彼の成功は自分を信じた結果だ。

 とはいえ、スイングは少し直す必要があった。バックスイング時に左サイドに体重が残りすぎていたし、トップで手の位置が高すぎ、クラブはレイドオフ(トップでシャフトが左を向いた状態)になっていた。ダウンスイングでクラブをインサイドから下ろし、安定したドローを打っていたが、より着実なプレーヤーになるためには軌道を変える必要があった。

 だが、マコーミックはスピースのスイングを特徴づけている要素はいくつか残した。スピースがバックスイング時に右ヒザを伸ばすのは、テキサス流ガニ股歩きのせいで不足する回転を補うため。また、左ヒジの屈曲と「手羽先」フォロースルーは、インパクト時のフェースコントロールに役立っている。

「そこを変えてしまうのは間違っているし、無意味なことです」とマコーミック。

 スピースはめきめき上達し、2009年と2011年の全米ジュニアアマチュア選手権を制したことで、指導者への信頼度は増すことになった。また、競争心の強いスピースは、マコーミックの勝ちにこだわるやり方を気に入っていた。

「彼は今も昔も、とにかくゲームが大好きなんです」とマコーミックは言う。

「ほとんどすべてのセッションの締めくくりに、ある種のスキルチャレンジをやっています。ゲームこそ、彼が本当の自分の姿を知る場所。彼は勝つために存在しているのです」(マコーミック)